書く目的は途中で迷ったときの判断基準になる
忘れられない風景を物語にしたい、頭の中の人物を生かしたい。小説を書く動機は、まだ他人に説明できる形でなくても構いません。まずは執筆メモに、この作品で残したい場面や感情を書いてみます。
例えば、離れて暮らす家族の距離を描きたいなら、再会だけが結末ではありません。会わない選択にも納得できるよう、人物の変化を描く道があります。筋を変えたくなったとき、その選択が書きたいことに近づくかを確かめます。
出版の目的も、創作の動機とは別に言葉にしてください。完成した物語を手元に置きたいのか、知らない読者に読んでもらいたいのか。目的が変われば、完成後に用意する紹介文や渡し方も変わります。
書き直しを続ける前に結末まで道をつなぐ
冒頭を磨いているうちに、後半へ進めなくなることがあります。そんなときは、未完成の場面を含めて物語の終わりまで並べてみます。本文にできない部分は、誰が何を選ぶ場面かというメモでつないでもよいでしょう。
止まった箇所では、文章の巧拙よりも人物の行動理由を見直します。主人公が望むこと、その行動を妨げるもの、行動後に変わる状況を書き出します。変化がない場面は、前後とまとめられないか検討してください。
結末ができたら、そこへ至るために必要な場面を冒頭へたどり直します。後から思いついた設定は、早い段階に手掛かりを置く必要があるかもしれません。伏線の位置を決めてから文章を整えると、推敲の目的が明確になります。
読者が知らない設定を原稿の外に残していないか
作者は、登場人物の過去も、舞台の成り立ちも知っています。読者が読めるのは、原稿に書かれた部分だけです。人物の決断に納得するための情報が、その場面までに示されているかを確認します。
例えば、主人公がある部屋を避けるなら、恐れや違和感の手掛かりを探します。理由を最後まで伏せる場合でも、避けていること自体は伝わるようにします。謎として残した情報と、説明が抜けた情報を区別する作業です。
試読を頼むときは、好みの感想だけでなく、読む途中で迷った場所を聞きます。「誰が話しているか分からなかった箇所」を尋ねると、直す場所が見えます。好みによる提案は、作品の目的と照らして採用を決めてください。
完成は直したい箇所が消えることだけで決めない
言い回しには、いつまでも別の候補が見つかります。出版用の原稿にする際は、物語が成立しているかと、表記が整っているかを分けて判断します。人物の動機や結末に大きな迷いがあるなら、先に構成を見直しましょう。
本に進めるかを判断するため、次の点を読み返してください。残った問題がどの作業に属するかも、横に書いておきます。
- 冒頭で示した出来事や問いに、結末が応えているか
- 場面が変わるたびに、場所と視点を追えるか
- 人物の呼び名や口調に、意図しない変化がないか
- 入れたい加筆と、今回の本に必要な修正を区別できるか
整合性に関わる問題は推敲・校正・編集の頼み方で整理できます。誤字だけの問題を、作品全体の未完成と捉える必要はありません。
配る本と売る本では準備する入口が変わる
家族に渡す小説でも、作者の口頭説明なしで読めるかが大切です。内輪で通じる呼び名や場所の関係が、物語の理解を妨げていないか確かめます。贈る理由は添え状などで伝え、本文を説明で埋めない工夫もできます。
販売を考える場合は、どんな物語かを初対面の人に伝える入口が必要です。主人公の置かれた状況と、これから起きる変化を短く説明してみます。紹介しづらいと感じたら、物語の中心がどこにあるかを再確認してください。
応募も視野にあるなら、公開や出版の前に文学賞と自費出版を確認します。応募条件に関する判断を先に済ませると、完成稿の使い道を選びやすくなります。
完成後にどんな読書の機会を作りたいか
読書会で感想を聞く、作品の舞台を知る人に渡す、創作仲間に紹介する。完成後の使い方を考えると、本にする目的が具体的になります。反応を聞く際は、感想の公開について相手の希望も確かめましょう。
刊行後に直したい箇所を見つけたら、次の原稿のためのメモに残します。今回の作品を形にする経験は、次に書く場面や読者への説明にもつながります。販売数だけで執筆の意味を決めず、作品をどう残したいかも考えてください。
まず、この小説を最初に渡したい相手と、読後に残したい感情を言葉にしましょう。それを手掛かりに、完成稿を通して読む機会を決めます。
